プロローグ


  明治7年(1874年)に、我が国初の医事法制と言われる「医制」が公布されてから140年余が経過した。この間、我が国の保健医療体制は社会の動向や生活環境の変化に伴い幾多の変容を遂げてきた。それを保健医療行政の視点で見ると、大きく次の5つの時期に区分することができる。

  第1期(~1921・大正10年頃まで )・・・中央集権的防疫体制の強化の時期

  第2期(~1945・昭和20年頃まで)・・・慢性感染症及び母子保健体制強化の時期

  第3期(~1961・昭和36年頃まで)・・・保健医療行政の再構築の時期

  第4期(~1980・昭和55年頃まで)・・・医療サービス拡充の時期

  第5期(~現在)        ・・・少子高齢化社会への対応の時期 である。 

 この区分によると、現在の保健医療体制の基盤は、特に第3期に築かれたものであると言える。敷衍すれば、第3期は、医療法や医師法、保健婦助産婦看護婦法(いずれも昭和23年公布)などの医療制度に関する各種の基本法が制定され、昭和36年には国民皆保険制度がスタートするなど医療需給体制の整備が飛躍的に図られた時期であり、この理念が現在に引き継がれている。そして、その後、人口の少子高齢化が一層進み、保健・医療・福祉の有機的連携が必至となるに伴い、第4~5期において制度の体系は大きく変容した。とりわけ、第5期においては、5回にわたり医療法の大改正が行われ、介護保険法が制定されるなど、その仕組みはより多様化、複雑化した。このため第5期に入ってから、国民の要望に沿った保健医療制度改革の必要性が広く叫ばれてきたのであるが、期待に反し、国は、医療費削減を狙いとした改革案を打出したのみで、依然、国民が求めている真の改革は進まず、保健医療行政は一層、混迷の度を深め今日に至っている。

 こうした動きの中で、当研究所は、第1期以前の時期も含めた、保健医療行政の歴史を詳細に顧み、これを踏まえて現状を分析し、課題を明らかにして、真に患者の視点に立った保健医療体制のあるべき姿を追求すべく2007年(平成19年)5月に佐藤典衛氏が設立したものである。

 氏は、長年、東京都庁で、主として保健医療行政に携わり、都庁退職後も、一貫して、公的な医療関係機関の役職を務め、保健医療に関する造詣が深い。そして、現在もなおこうした公職にある傍ら当研究所を主宰するとともに、医療機関の経営分析や医療問題に関する講演など、広く医療に係るボランティア活動を行っている。

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